9. 対人行動
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1. 攻撃行動
対人行動は、それが社会的に望ましいものか否かという観点から2つに大別できる 1-1. 攻撃行動の形態
手段
能動的か受動的か
自らが攻撃をくわえる
相手を拒絶したり、無視したりする
相手にわかるようにするか否か
攻撃していることが相手にわかるように攻撃する
自分が攻撃していることが相手にわからないように攻撃する
目的
相手を傷つけること自体を目的とした攻撃
別の目的を達成するための手段として攻撃を利用する(後述)
1-2. 攻撃行動を説明する代表的理論
攻撃行動を引き起こす衝動を人間が生まれつき持ち合わせている 動物行動学者のローレンツも、動物には攻撃中枢があり、食欲や性欲が発動するのと同じ用に、攻撃性に関する衝動が内発的に高まるのだとしている 欲求不満: 目的の達成が阻害されたときに生じる不快感情 すなわち、この仮説では、攻撃の衝動は外部の刺激によって喚起されると考えられ、その点で攻撃衝動を本能的、内発的なものと仮定する本能論とは大きく異なる
この仮説によれば、攻撃行動の目的は、欲求不満を引き起こした問題の解決ではなく、不快感情の解消にある
そのため、時には欲求不満とは因果的に無関係な対象に攻撃が向けられることがあり、たとえそうであったとしても不快感情は低減する(カタルシス効果がある) 子どもに他者の攻撃行動の様子を観察させると、それが直接的な観察であっても、間接的なものであっても、子どもが攻撃行動を模倣することが示された 現在のところ最も統合的なモデル
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攻撃行動が生じるまでのプロセスを3つの段階で捉えている
攻撃の先行因にあたる入力段階
個人要因と状況要因の両者が関係すると仮定する
入力された刺激が個人の内的状態(認知・感情・覚醒)に影響する段階
たとえば不快な出来事は敵意的な志向や怒り感情を生み、血圧や心拍を増大させるなどの変化を引き起こす
状況評価と意思決定
第二段階の内的状態の変化が影響し、それによって衝動的に、あるいは熟慮の末に攻撃行動として出力される
1-3. 攻撃行動を促進する要因
個人要因
攻撃行動に個人差があることは数多く指摘されている
男性は女性よりも攻撃的であると一般には認識されているが、メタ分析の結果によると、全体としては男性のほうが女性よりも攻撃的だといえるがその差は大きくなく、研究によって一貫しないという(Eagly & Steffen, 1986) 男性と女性では、攻撃の種類が異なることも指摘されている
男性は身体的攻撃をする傾向が強いのに対し、女性は心理的、社会的な危害を与えるような攻撃が目立つことも報告されている
自尊感情も、かつては低いことが攻撃行動につながるとされていたが、近年は高すぎることの弊害が指摘されている 状況要因
不快な環境事象が攻撃行動を促進することが多くの研究で報告されている
高い気温、混雑(密集)、騒音、大気汚染など
コンテンツや技術的な変化が著しいため、明確な結論を出しにくいのが実情
欲求不満を募らせるような目標妨害は攻撃行動を促進する
攻撃には社会的な機能がある(後述)ため、他者からの攻撃や支配、侮辱や挑発に対しては、攻撃行動が発動されやすい
1-4. 攻撃の社会的機能と名誉の文化
攻撃行動のなかには、相手を傷つけるためではなく、別の目的を達成するために行われうものがある
攻撃はそれ自体に様々な機能的な価値があると考えられる
回避・防衛としての攻撃(他者の攻撃を回避し、自己を防衛するための攻撃)
強制としての攻撃(他者の態度や行動を意図した方向に強制的に変化させるための攻撃)
制裁としての攻撃(規範を逸脱した者、被害の責任を負う者を制裁するための攻撃)
印象操作としての攻撃(対面を保ったり、相手に特定の印象を与えるための攻撃, →7. 自己過程) アメリカ南部での殺人率が他の地域の3倍に上ることを説明するために考案された概念
自らの強さ、男らしさについての評判が脅かされることに南部の男性が強い危機意識を持っていることと、侮辱に対して暴力で応じるといった慣習が多いことを含意している
牧畜社会は、農耕社会に比べ、生活の糧である家畜を容易に盗まれる可能性が高い しかも、入植当初の法による統治が確立していない生活環境では、自衛のために「相手になめられないこと」が死活問題であった
それゆえ、強い男性を印象づけるため、侮辱に対して暴力で応じるという慣習ができあがり、もはや牧畜社会ではない現代に置いても、その文化が受け継がれているという
ニスベットとコーエンは、社会心理学的な実験のほか、様々な統計資料を駆使して、この仮説を検証している
2. 援助行動
向社会的行動の典型
少なくとも表面的には、外的な報酬や見返りを期待せず、自発的に人を助ける行動
援助行動が利他的な動機に基づくものなのか、利己的な動機に基づくものなのかについては根深い議論がある
2-1. キティ・ジェノヴィーズ事件
38人の住民が何らかの形でこの事件に気づいていたが、彼女が息絶える直前まで暴行を止めようとした者はおらず、そればかりか警察に通報する者さえいなかった
都会の人々の冷淡さや他者に対する関心の低さに求める
2-2. 傍観者効果を促す要因
自分ひとりだけであれば、それを無視した場合に他者からの非難を一身に浴びる可能性がある
大勢いれば、自分が受ける非難はその分少なくなる
他者からの評価を気にかけることであり、援助行動に限らず、他者が存在する場面では、他者の目にどのように映るかを気にしながら私達は行動している
自分がとるべき行動が明白でない場合、周囲に他者がいるほど自発的な行動が抑制される
先走った行動はその場の暗黙の社会規範を破る可能性があり、自分が良かれと思ってとった行動でも、他者からの非難や排斥を招くことが予想されるため、抑制されやすい
周囲にいる他者の殆どが実際には自分と同じように感じたり、考えたりしているにもかかわらず、他の人達は自分とは異なる感情や思考を持っていると取り違えてしまうような状況を
大勢の他者が周囲にいる場合、実はまったく同じ事を周辺の人々も考えている可能性がある
誰もが他者の行動を参照していた場合そこでは奇妙なことが起こる
評価懸念がつきまとうような状況においては、他者の行動を指針するといっても、露骨に他者の行動を参照する者はいないから
その場の状況を適切に把握できていない人同士が互いを参照し合うこととなり、結局、誰も状況の緊急性を正しく評価できないといった事態が生じる
あるいは他者の平然とした様子を見て特別な状況ではないと確証し合うこととなる
2-3. 援助行動が生じるプロセス
緊急事態で援助行動が発動されるまでには、様々な要因が関与する
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緊急事態に注意を向ける気づきの段階
緊急事態が発生したとき、そこに居合わせた人が何か深刻なことが起こっていることに気づくためには、注意を向けなければならない 人の注意は選択的であり、自分を取り巻くあらゆる事象に常に注意を向けているわけではない
しかし、傍観者が大勢いると、注意が拡散し、緊急事態が発生していること自体に気づかないことがある
緊急事態であると判断する段階
何かが起きていることに気づき注意を向けたとしても、それが援助の必要な緊急事態であると判断されなければ、援助行動は起きない
集合的無知が起きるような状況では、本来は緊急を要するような状況であっても緊急事態だと認識されないことがある 個人的責任の度合いが決定される段階
目の前の状況が緊急事態だと判断したとしても、その事態をどの程度、自分に責任のある事態と認識するかによって、援助という介入行動が起きるかどうかは変わる
傍観者が大勢いるような状況では、責任の分散が起きやすいため、誰もが自分には責任がないと感じてしまう 介入様式(援助の方法)が決定される段階
自分には援助すべき責任があると自覚した場合には、今度はどのような介入ができるかを考えなければならない
介入の手段を知らなければ、あるいは必要な介入行動を思いつかなければ、援助行動は生じない
援助すべきと思っても、自分に何ができるかがわからない、あるいは自分ではどうすることもできないと思えば、介入には至らないということ
介入を決断し、実行する段階
この段階に至れば、多くの場合、援助行動の実行が選択されるが、評価懸念が生じたり、コストに見合うだけの利益がないといった推測が働くと、抑制されることもある
上記のプロセスは、単方向のものではなく、現実には、各段階を行きつ戻りつしながら、援助行動を実行するか否かが決断される
このように援助行動は多くの意思決定段階から成り立っているため、緊急時の援助行動を促進するには、肯定的決断を阻む要因をいかに取り除くかが鍵となる
2-4. 援助行動の動機
様々な阻害要因があるにもかかわらず、人はごく日常的に、親しい他者にはもちろんのこと、それまでに会ったことがない人に対して援助行動をしているというのもまた事実
援助行動の多くは、労力や金銭といった自己犠牲を伴う
援助行動をめぐっては、それが純粋に利他的な動機から生じるものなのか、利己的な動機から生じるものなのか、未だ議論が続いている
援助行動をした当人にその動機を尋ねることは容易だが、その回答が真の動機を反映しているとはいえないことが問題を複雑化している
援助者は単に社会的に望ましい回答をしているだけの可能性もあるし、そもそも当人が真の動機を自覚していない可能性もあるから
2-5. 被援助者からの援助要請
にもかかわらず、私達は援助の要請を控えたり、拒んだりすることがある
「借りがある」という感覚
援助を要請するということは、当該の問題を解決する能力がないと相手に思わせたり、自分でそれを認識したりすることになる
これは自尊感情を維持・高揚することに対し脅威となりかねないこと
3. 対人コミュニケーション
3-1. 対人コミュニケーションの種類と機能
他者とコミュニケーションする際、相手にもわかるような記号に置き換えて、伝えることが求められる 互いの考えや意図は直接、観察することができないため
受け手はその記号を解読することで、相手の考えや意図を推し量ることとなる
人間のコミュニケーションにおいて、最も特徴的なのは、この記号に言語が用いられること 言語コミュニケーションが誤解なく成立するには、双方が記号の意味、すなわち言語の意味を共有していることが前提となる しかし、会話が成立するにはそれだけでは不十分
量
要求に見合うだけの情報を与えるような発言を行い、要求されている以上の情報を与えるような発言を行ってはならない
質
嘘だと思うことを言ってはならないし、十分な証拠のないことを言ってはならない
関係
関連性のあることを言いなさい
様態
曖昧な言い方、多義的な言い方をせず、簡潔な言い方、整然とした言い方をしなさい
話し手は暗黙裡にこのルールに則って話をし、聞き手も話し手がこのルールに則って話をするだろうと信じるからこそ、言語コミュニケーションは成り立つ
一方で私達は、言語以外にも様々なチャネルを通じて対人コミュニケーションを行っている
音声的
1) 言語的(発言の内容・意味)
2) 近言語的(発言の形式的属性)
a. 音響学的・音声学的属性(声の高さ、速度、アクセントなど)
b. 発言の時系列的パターン(間のおき方、発言のタイミング)
非音声的
3) 身体動作
a. 視線
b. ジェスチャー、姿勢、身体接触
c. 顔面表情
4) プロクセミックス(空間の行動)
対人距離、着席位置など
5) 人工物(事物)の使用
被服、化粧、アクセサリー、道路標識など
6) 物理的環境
家具、照明、温度など
表9-1の2)以降はすべて非言語コミュニケーション
これらのチャネルを組み合わせて対人コミュニケーションを行うことで、私達は単に情報を伝達することにとどまらず、相手に親密さを表出したり(e.g. 微笑みかけることで相手に親しみを伝える)、対人相互作用を調整したり(e.g. 着席位置を変えることで相手との関係性を調整する)、相手をコントロールしたりしようとする(e.g. 相手を説得するために相手を見つめたり、声の高さを変える)
また、医者が患者の身体に触れて安心させる場合のように、サービスや仕事上の目標を促進するために、コミュニケーションが用いられることもある(Paterson, 1983) 3-2. 情報の伝達
情報の伝達は、対人コミュニケーションのもっとも最も基本的な目的だが、情報は人を介して伝達することで、徐々に変容していく
実験内容
一人の実験参加者にのみ何らかの状況を描いた絵を見せ、その絵に描かれた状況を順に他者に伝えるように求める
3つの変化が生じるとしている
情報が伝達されるに従って、情報の細部が徐々に省略され、説明が単純で平坦なものになっていく現象
残された情報が徐々に誇張されていくという現象
伝達者の先入観に沿う方向に情報が歪められる現象
3-3. スモールワールド
もし世界中の人々の中から無作為に2名を取り出したとして、その一方から他方に情報を伝達するとすれば、何名の人を介する必要があるか
この実験では、無作為に選ばれた起点人物に、やはり無作為に選ばれた目標人物の名前と居住地、属性を伝えた
自分よりも目標人物を知っていそうな知人ひとりだけに手紙を送るように依頼し、チェーンレターの要領で手紙をつないだ
その結果、アメリカのネブラスカ州に住む起点人物からボストンの目標人物に到達するまでに中継した人数の平均は5.2名だった
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ただし目標人物に到達しなかった手紙も多かった
ミルグラムは、類似の実験を複数回行い、いずれもおおよそ5人を介して6ステップで目標の人物にたどり着くという結果を得た
このことから、互いに面識のない2名の間にあるのは、わずか「6次の隔たり」だとしている